令和6年(2024)1月「まちなか推し巡り展」が「長崎市まちぶらプロジェクト」に、同8月には「清地化プロジェクト」が「長崎創生プロジェクト」に相次いで認定された。いま、アニメ作品の舞台をテーマとした活動で注目を浴びている一般社団法人推し巡り協会理事長の平野さんにお話を伺った。
アニメとの出会い
生まれは長崎市北部の新興住宅地。学生時代は部活で6年間バレーボールに打ち込んでいたという平野さんは「長崎居留地という場所の存在を知らなかった」と当時を振り返る。
母の実家が理容室を営んでおり、子供の頃は店に置かれていた「北斗の拳」や「花の慶次」の単行本を読んでいたという。本格的にアニメが好きになったのは、大学生の頃に「CLANNAD」にハマってから。今ではアニメも漫画も両方好きで、自宅には漫画本が1500冊以上、フィギュアは30体以上がコレクションされているという筋金入りのコレクターだ。
自分が知らない長崎の街との出会い
平野さんは、平成30年(2018)に地上波で放映された長崎が舞台のアニメ「色づく世界の明日から」に衝撃を受けた。「自分が生まれ育った長崎の街のはずなのに、映るのは知らないところばかりだった」と語る。学生時代はバレーボール漬けで、自宅からほど遠い観光地にはほとんど足を運ぶ機会がなかった。
ある日、このアニメのロケ地となった長崎居留地に興味が湧き、実際に行ってみることに。洋風の建築物、石畳の坂道、街を見下ろす絶景…そこには、あまりにも美しい長崎の街が広がっていた。そこから長崎居留地の魅力に取り憑かれてしまい、毎週のように通うことに。当時は、街の風景を写真で撮る習慣はなかったが、ロケ地を巡るうちに写真を撮る機会が増えていった。
推し巡り活動
令和元年(2019)の春、たったひとりで「色づく世界の明日から」のロケ地を発信する「推し巡り」のウェブサイトを立ち上げた。活動をこまめにSNSで発信していくうちに、サイトの管理運営を手伝ってくれる仲間が次第に増えていき、ついに20人を超えた。メンバーは北海道から九州まで様々で仕事もバラバラ。リアルに会ったことのない人も多く、東京のコミックマーケットで「はじめまして」なんてことも。現地にいる人はロケ地の写真や情報を集め、週に1回のオンラインミーティングで情報を共有し、平野さんがウェブサイトに反映している。
活動を継続できるよう、令和5年(2023)8月には「一般社団法人推し巡り協会」を設立。個人として「推し巡り」のウェブサイトの運営を行いながら、今後は法人としてまちなかを周遊できる仕組みづくりにも取り組んでいく。
最近では「清地化プロジェクト」として、アニメの舞台となった公園などの清掃活動を行い、多くの参加者を集めている。「公園の清掃は必ずしも地域の人だけがすることではない。面倒くさい、疲れる、時間がかかるなど、コストに見合わないものに価値を感じている」と平野さん。あえて人がやりたがらないことに挑戦し、賛同する人を巻き込んでいくことで活動の輪を広げている。
「長崎居留地は、異文化交流が盛んで他の地域にない見所がたくさんあるが、それを『歴史文化』というひと括りの発信で終わって欲しくない」と平野さん。
アニメ作品を通して、アニメファンを長崎居留地にどう巻き込んでいくか。地域外の人は作品から地域を知るし、地域内の人は地域から作品を知る。「作品があって当たり前」ではなく、「作品を作ってくれてありがとう」という感謝の気持ちが大事で、作り手とユーザーが「win-win」になる関係を平野さんは大切にしている。
アイデアマンではなく、行動する人に
平野さんは、長崎市内のスポーツジムでスポーツインストラクターの仕事をしながら推し巡り協会の活動を行っている。インストラクターとしての仕事や会員様との関わりが、今の活動にも活かされているという。
SNSでの発信では、推し巡り協会の広報担当キャラクター「水無月ゆかり」を運用している。ブランドイメージとなるキャラクターを用いてSNSを運用し、フォロワーと密にコミュニケーションをとることが大事だという。実は、水無月ゆかり以外にも、あと4人のキャラクターがいる。
「地域特化型のキャラクターを生み出し、行政や民間企業がPRキャラクターに起用したり、SNSの発信を通じて活動を応援しあえるような関係づくりが大事なんです」と平野さん。実在する人間を広告塔にした場合には様々なリスクがあるが、2次元キャラクターの場合は、発信内容をしっかりコントロールすることでリスクが軽減される。平野さんはこうした地域特化型のキャラクターを活用した地域プロモーションの取組みを長崎から全国に広げていきたいと考えている。
自分一人では難しいので、長崎県内21市町で地域を盛り上げたい人を募集したところ、一緒にやりたいという方が多数集まったという。今後はその仲間たちと一緒に活動の幅を広げていく計画だ。
平野さんは「アイデアを持っている人は沢山いるけど、実際に行動に移す人はごく一部。仲間と一緒になって行動する人でありたい」と目を輝かせた。
あなたにとっての「長崎居留地STYLE」とは?
「新しい挑戦ができて応援してくれる場所」
「令和6年(2024)2月から、南山手レストハウスにて『まちなか推し巡り展』という常設の写真展に挑戦しているので、ぜひ足を運んで欲しい。『清地化プロジェクト』も出雲近隣公園などで実施しているので、今後は地域との関係を深めていきたい」と平野さん。令和6年(2024)8月末には、長崎居留地も舞台として登場するアニメ映画「きみの色」が公開される。平野さんの活動からますます目が離せない。
文:長崎居留地歴史まちづくり協議会事務局 取材日:令和6年(2024)2月19日